人材育成の効果を高めるコーチングの基礎知識
「コーチングって言葉はよくきくのだけど、具体的にはよくわからないから」とセミナーの受講理由として言われるケースが多いです。
それは、コーチングの定義がさまざま存在し、スポーツや語学、自己啓発セミナーなどさまざまな場面で使われるからと考えられます。
このコラムでは、ビジネスシーンで使われる「コーチング」について整理します。コーチングを人材育成に活用したいと思ったら、難しさも含めて正しい理解が大切です。
「指導=コーチング」と理解していたら、それは間違っています。
また、コーチングを「知っている」と「できる」の間に存在する大きな壁の理解も必要です。
日本ではコーチングの研修やセミナーが多く開催されています。しかし、それほど活用されていると聞かないのは、その壁をなかなか越えられないからと考えています。
【コラム】コーチングのビジネスが怪しい、胡散臭いと感じる理由
【目次】 |
人材育成の方法は教えるだけではない
部下や後輩ができたら、OJTによる育成の必要に迫られます。
一般的に仕事での人材育成は「教える」「指導する」と方法をとられるケースが多いです。ティーチングと呼ばれる方法です。
近年ティーチングだけでは不十分と考えられるようになってきました。そこで注目されているのがコーチングです。
ティーチングとコーチング
コーチングときくとスポーツのコーチのように「指導するスキル」のイメージをもつかもしれませんが、ビジネスの世界でのコーチングは全く異なります。
コーチングはティーチングの反対語のようなイメージを持ってください。
ティーチングとコーチングはどちらがが優れているとかは無いです。メリット・デメリットを後述しますが、お互い補完関係にあります。上手な使い分けがもとめられます。
ティーチングとコーチングもクライアントの問題を解決する目的は同じです。アプローチ方法が異なるだけです。違いを簡単に表現すると次のようになります。
【ティーチング】
答えは先生が持っています。知識や経験をもとにアドバイスをクライアントに与えます。
【コーチング】
答えはクライアントが持っています。コーチがクライアントから答え(気づき)を引き出します。
メリット・デメリット
ティーチングとコーチングそれぞれのメリット・デメリットについて説明します。
〇ティーチング
【メリット】
・解決が早い
・クライアントに無い情報が得られる
【デメリット】
・あくまで過去の答え、将来にも通用するかわからない
・クライアントが教えてもらわないと行動しなくなる
〇コーチング
【メリット】
・クライアントの考える力を強化し、成長を促す
・自己解決の体験により達成感、モチベーションがアップする
【デメリット】
・解決に時間を要する
・クライアントに無い情報はいくら考えても引き出せない
ティーチングとコーチングは補完関係です。
近年、注目されているのは、「社員が指示待ちになっている」「社員のモチベーションが低い」「社員がやりがいを感じていない」といった課題に対応できるからです。
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コーチングの基礎知識
コーチングについて、全体像を説明します。
わかりにくくしている要因に、スポーツのコーチやメンタルコーチだけでなく、さまざまなスキルに「コーチング」が使われています。
繰り返しになりますが、このコラムで説明するのは「一般的なコーチングスクール」で教えているコーチングの基礎知識になります。
コーチングとは
コーチングとは、「クライアントから気づきを引き出し、行動を促し、成長を促し、目標の達成をサポートする」スキルです。
具体的には、コーチとクライアントが1対1で面談を行います。この面談をコーチングセッションと呼びます。
ティーチングと異なり「答えを教えない」「クライアント自身が考える」ので、解決まで時間を要します。
1回のセッションで目標達成するケースはほとんど無いです。
定期的にセッションを行い、セッションの終わりには必ず行動を促します。
セッション⇒行動⇒セッション⇒行動⇒セッション⇒行動⇒・・を繰り返し、クライアントは目標達成に近づいていきます。
この一連の流れの全体像を「コーチング」と呼びます。
コーチングスキルとは
コーチングスキルとは、セッションで活用されるスキルです。
ティーチングと異なり、「気づきを引き出す」がもとめられます。
「気づき」を引き出すには、できるだけたくさん話してもらう必要があります。たくさん話してもらうスキルがコーチングスキルです。
コーチングスキルは「傾聴」「質問」「フィードバック」から構成されます。それぞれにスキルの役割は次の通りです。
【傾聴】
クライアントが安心して本音を話せる場をつくります。承認も含みます。
【質問】
クライアントの視点を自在にコントロールして、話を引き出します。
【フィードバック】
コーチが感じたことを鏡のようにクライアントに伝えることで、クライアントの気づきを引き出します。
これらのスキルはとても奥が深いです。耳を傾けるだけで傾聴ができるわけでは無いです。質問も「自分が知りたいことを質問する」とは全く異なります。
コーチングセッションとは
コーチングセッションとは、コーチとクライアントの1対1の面談です。
一般的に「コーチングを習う」とは「セッションのやり方を習う」を意味する場合が多いように感じます。
しかし、コーチングスキルの難しさを理解しておかないとセッションは機能しません。
コーチングスクールなどでは、30分間のセッションを練習するケースが多いです。30分間でクライアントから気づきを引き出し、行動を促します。
セッションの基本としてはGROWモデルに沿って進められます。
GROWモデルとは、次の単語の頭文字をとったフレームワークです。
Goal(ゴール)
Reality(現状)
Option(選択肢)
Will(意思)
GROWモデルに沿って、次のようにコーチングセッションを行います。
1.クライアントの目標のゴールの状態を具体化する
2.そのゴールに対して現状を具体化する
3.ゴールと現状のギャップを埋める行動(選択肢)を明確にする
4.選択肢の中からどれから行動するか意思を示してもらう(行動を促す)
セッション⇒行動⇒セッション⇒行動⇒・・を繰り返して目標達成をサポートします。
コーチングを学ぶ上での注意点
コーチングを学ぶ上で、事前に押さえておきたい注意点を説明します。
コーチングは日本に入ってきて20年以上になりますが、いまだに浸透していないのは、コーチングならではの難しさがあるからです。
コーチングは難しい
コーチングは、極端に言えば、「クライアントの話をしっかり聴いてあげるスキル」です。
「聴いてあげるぐらい簡単」と捉えられがちです。「ただ聴いてあげる」と「コーチングの聴く」は全く異なるスキルと捉えてください。
この「聴く力」は奥が深く、とても難しいスキルです。
単発の企業研修でコーチングを学んだ人も実践しようとすると壁にぶつかり、効果を上げられません。実際に使えるレベルにするには、何時間もセッション練習が必要なのです。
最も大きな壁は「信頼関係」です。
嫌われている上司がコーチングスキルを駆使しても部下は本音で話をしないでしょう。信頼関係構築も含めてコーチングなので、とても難しいスキルになります。
研修やセミナーでは多くの場合、信頼関係の構築の仕方から学びます。
しかし、信頼関係の構築の仕方がわかったからといって、次の日から信頼関係が構築されるわけでは無いです。
コーチングの壁
コーチングの大きな壁は「信頼関係」ですが、その他に次のような壁があります。
・結果を焦る
上司が部下にコーチングする場合。上司はさらにその上司から結果をもとめられています。
そのプレッシャーに負けて、指示命令に走りがちになります。そうなるとティーチングになります。
・答えをコーチが持っている
知識や経験が豊富な役職者ほど陥りがちですが、アドバイスや提案に走りがちです。
クライアントを信頼していないからかもしれません。
・クライアントがコーチに依存する
コーチングは「クライアント自身が答えを考えるスキル」との同意がとれていない、もしくは、コーチがいつもアドバイスに走るタイプの場合、クライアントはアドバイスをもとめてきます。
できない理由を「コーチが良いアドバイスをくれないから」と責任転嫁するようになります。
ティーチングに偏ると指示待ち社員になる可能性があります。
・質問が出てこない
質問力も奥が深いです。コーチング学び始めたころは質問が思いつかないケースが多いです。沈黙に耐えられずアドバイスや提案に走りがちです。
・質問攻めにしてしまう
コーチングの質問が思いつかない時、自分が知りたいことの質問に走りがちです。質問攻めにすると、クライアントとの信頼関係が壊れる可能性があります。
・厳しいフィードバックができない
逆に信頼関係が壊れることを恐れすぎて、ネガティブなフィードバックができないケースがあります。
言い訳ばかりしてるように感じたら、共感しつつ「問題から逃げようとしてるように感じる」など、感じたことのフィードバックが大切です。
厳しいフィードバックができないのも、クライアントを信頼していないからです。
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人材育成にコーチングを活用しよう
ビジネスの人材育成において大切なのは「考える力の育成」です。
なぜならビジネスの世界は常に答えのない未知の課題に向き合い続けなければならないからです。
未知に対して、「教えてもらってないから動けない」では、いつまでたっても、積極的行動ができません。
近年、学校ではアクティブラーニングが教育方法に取り入れられています。また、センター試験が廃止され、課題解決力を問う大学入試共通テストにかわります。
日本全体で「考える力」の強化がもとめられています。
コーチングはクライアントの「考える力」を育むスキルです。
自ら主体的に考え課題に取り組む社員を増やすにも、人材育成にコーチングを活用しましょう。