下請中小企業の自社ブランド商品サービス開発方法
競争環境がグローバル化する中、下請け中小企業にとって、同じモノを安くつくれる会社の参入は、脅威となります。
しかし、経営資源のない下請け中小企業は、なかなか商品開発に踏み出せません。
そうしているうちに、経営状況が悪化していく下請け企業は少なくありません。
はじめて商品開発に取りくむ下請け中小企業対象に、商品開発方法を説明します。
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【目次】 |
マーケティングと商品開発
「マーケティング」とは、商品を効率的に販売する目的の「市場とのコミュニケーション」です。
モノとサービスが供給過剰になっている現在、商品開発でもマーケティングの考え方は重要になっています。
商品開発の考え方で代表的な、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」を説明します。
プロダクトアウト
高度経済成長期に、主流だった考え方です。
企業は技術力を磨いて、「自社が売れると思うもの」を開発して販売します。
バブル全盛期は、モノとサービスが不足している時代であったので、良い商品をつくれば売れる時代でした。
しかしバブルが崩壊して、モノやサービスの供給が過剰な時代になると売れなくなっていったのです。
下請け中小企業は、「自社ができること」を基準に、商品を検討する傾向にあります。
顧客のニーズの多様化とともに、「自社ができること」と「顧客が欲しいもの」とのミスマッチが生まれるようになりました。
しかし、このようにしてプロダクトアウトの考え方が間違いというわけではありません。
スマートフォンやドローンのように、顧客が気づかないような画期的な商品の開発では、重要な考え方です。
マーケットイン
現代では、モノとサービスの供給が過剰になり、これまでのように「良い商品を作れば売れる」という時代ではなくなりました。
「顧客が何を望んでいるか」に焦点をあてて、商品開発が重要になりました。
現在の主流の考え方において、ニーズが満たされた顧客から、さらにニーズを引きだすことが難しくなってきています。
顧客にたずねるだけでなく、日常会話や行動の観察から不便を見つけ出す。
将来必要になるものを、想像するのが大切です。
上述したように、画期的な商品開発は、マーケットインの考え方では難しくなっています。
たとえば、イノベーションを起こした人物は、次のように発言しています。
・量産型自動車を開発したフォード
「顧客に何が欲しいかたずねたら、『速い馬』と答えて、『自動車』とは答えなかっただろう」
・スマートフォンを開発したスティーブ・ジョブズ
「私たちの仕事は、顧客が望むよりも先に、彼らがこれから望むであろうものを理解する」
「自社の技術と商品があれば実現できる」と、「顧客が満たしたいニーズ」の両面から、商品を考えるのが大切です。
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商品開発の全体像
商品開発の経験がない、下請け中小企業は多く存在しています。
経験がないので、リスクの大きい新商品開発に踏み出せません。
このような下請け中小企業を対象に、「どのようなプロセスで開発していけばよいのか」「どのようなポイントに注意すればよいのか」を紹介します。
商品開発プロセス
商品開発は「このようにしなければならない」というルールはありません。
ここでは、参考となる、商品開発のプロセスの一例を紹介します。
1.マーケティングリサーチ
マーケティングリサーチの目的は、「顧客や社会が何をもとめているのか」の情報の取得です。
顧客のニーズとミスマッチを、起こさないようにする。
下請け中小企業は、マーケットインの考え方での商品開発が大切です。
マーケティングリサーチの進め方。
経営資源の少ない中小企業の場合、現在関わりのある顧客を中心に行います。
なぜなら他社が参入しにくい、そして、顧客との関係性のさらなる強化が期待できるからです。
リサーチの内容は、「現行の商品の不満点」「他にこのような商品・サービスがほしい」「川上・川下の仕事もしてほしい」などです。
日ごろから顧客とコミュニケーションをとり、困りごとなどのニーズを把握します。
その他の方法として、商工会議所、展示会などを活用します。
2.自社のリソースを確認
社内に存在する「顧客のニーズに応えるリソース」を確認します。
リソースとは、「人的資源」「技術力」「資金力」「ノウハウ」などです。
下請け中小企業の経営者と話すと、「自社に強みはない」といってあきらめられるケースが多いです。
しかし、親会社は強みのない会社とは取引しません。
自社が「当然である」と思っている要素が、客観的にみると「質の高い技術」であるケースが多いのです。
客観的視点で自社を分析しながら、必要に応じて新たな強みを育ていきましょう。
3.商品企画会議(企画作成)
顧客のニーズに応える自社のリソースが把握できたら、どのような商品にするか「具体化」していきます。
売れる商品ができるか否かは、ここでほぼ決まります。
以下は、確認・決定項目の一例です。
・商品、サービスは何か?
・顧客の何を解決するのか?
・商品、サービスのスペックは?
・どのように生産、提供するのか?
・価格はいくらにするのか?
・発売時期はいつにするのか?
・月にどれぐらい生産、提供するのか?
・自社のリソースをどのように配分するのか?
・コストはどれぐらいするのか?
・利益の見込はどれぐらいなのか?
・将来性はどうなのか?
・他社にマネされないようにするには?
「自社のビジョンにあっているのか?」の確認も大切です。
「商品の仕様」「担当者」「開発スケジュール」などが決まれば、商品開発に取り掛かります。
4.商品開発
開発担当者が主体となって、商品開発を進めます。
自社だけで難しい場合は、「親会社の協力を得る」「公的機関の活用」「民間の支援サービスの活用」「異業種と提携」などの対応が考えられます。
テストを繰り返し、機能や品質のブラッシュアップが大切です。
他社が簡単に真似できないレベルまで質を高めます。
5.マーケティング活動
商品の完成が近づいてきたら、マーケティング活動を始めます。
マーケティング活動とは、スムーズに売り上げにつながるように商品を顧客に周知するものです。
大企業が行うテレビCMやイベントなどは、マーケティング活動の一種になります。
商品から得られるメリットをPRするチラシやホームページをつくり、見込み客に知ってもらいます。
6.販売開始
商品が完成したら、販売開始です。
企画と実績を確認しながら修正を繰り返します。
以上の順に商品開発を行います。
商品企画する前の注意点
プロセスの一例を紹介しました。
しかし、商品開発は、必ず成功するとは限りません。
モノやサービスが溢れる時代に、他社と差別化された商品の開発は簡単ではありません。
その他、商品開発前の注意点を紹介します。
・ 「特許法」「PL法」「食品衛生法」など、商品カテゴリーごとに関係する法律の確認が必要です。
・ 新商品開発しようと思っても、すぐにアイデアは出ません。日ごろから情報収集が大切です。
・ 従業員は良いアイデアを持っていても発言しない場合があるので、コミュニケーションが活発な組織風土にしてください。
・ 自社で全てを実行しようとすると、現行のビジネスに影響が出るかもしれません。外部の力の活用も大切です。
・ 収益を圧迫するので、安易な値下げは避けます。
商品開発に取り掛かる
「顧客のニーズ」と「自社のリソース」の情報が集まると、担当者は商品企画会議を開催します。
商品企画会議での確認ポイントは、上述しました。
しかし、「発散してまとまらない」という事態は避けたいです。
商品開発の方向性の決定が大切です。
しかし、経営者が単独で決めてしまうと、偏りが生じるので注意が必要です。
「最初の会議で、どのような項目を話し合うのか」一例を紹介します。
あわせて、新商品開発に関する知識がないから踏み出せないという場合に備えて、専門家の活用もお伝えします。
商品開発の方向性
初回の商品企画会議では、出されたアイデアの中から、「商品」「サービス」「ターゲット」など、どの方向で商品開発を進めるか決めます。
事前に、商品のアイデアをできるだけ多く集めておく必要があります。
下請け中小企業が商品開発を考える時の方向性は、経営資源が少ないので、基本的にマーケットインでの検討が大切です。
「現行の商品に付け加えられるもの」「顧客の困りごとを解決するもの」を中心に、アイデアとして出します。
自社もマーケットインの対象の一つです。
社内で成功した「5S活動」「生産ラインに導入したIOT」「生産管理ツール」などのノウハウを外販も可能です。
アイデアが集まれば、数多く出されたアイデアを、「実現可能性」「効果」「開発時間」などで点数をつけます。
実現可能性:本当にできるのだろうか?
効果:「顧客」「自社」にとって、どれぐらい効果のある商品だろうか?
開発時間:商品開発にどれぐらいの時間がかかるだろうか?
これらの項目で点数のバランスが良く、合計が高得点のアイデアを選択します。
専門家の活用も大切
下請け中小企業は、人材が不足しているから商品開発ができない状況があります。
そのような場合は、専門家など外部のリソースを活用しましょう。
技術的、ビジネス全般、法律など、相談できるところは多数存在します。
大阪の公的機関の相談先、一例を紹介します。
〇技術相談
大阪技術産業研究所:http://www.omtri.or.jp/
〇ビジネス全般
産創館:産創館:https://www.sansokan.jp/product/
大阪商工会議所:http://www.3osaka.jp/
よろず支援拠点:https://www.yorozu-osaka.jp/
大阪以外の各都道府県にも、同様の公的機関があります。
民間でも「弁護士」「弁理士」「各種コンサルタント」など、相談する拠点は多く存在します。
注意点は、相談相手によって、結果が左右される点です。
信頼できる相談先を探すことが、重要になります。
また、下請け中小企業は有料相談を避ける傾向にあります。
しかし、有料の相談先であっても、早く収益として回収できるなら結局は安く済みます。
無償でも、効果が出ないなら、時間という資源を無駄に消費することになります。
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下請け中小企業も商品開発はできる
下請け中小企業は、経営資源の少なさから、商品開発を始める前にあきらめてしまうケースも多いです。
しかし、自社ブランドの商品開発に成功し、親会社への依存度の減少に成功した中小企業は存在します。
できるか否かを判断するためにも、少しずつでも商品開発に取り掛かかろうとの姿勢が大切です。
まずは社内で、商品開発の方向性を打ち出す話し合いから始めましょう。