新卒一括採用から通年採用、同一労働同一賃金制度、有休休暇取得の義務化など、働く環境が大きく変わろうとしています。
人材をどのように活用していくかが中小企業の大きな課題です。会社が成長していくには、社員の成長が欠かせないからです。
中小企業の多くが成長を促す方法として、社員の不満を減らし、社員のモチベーションアップにつながるような人事評価制度の導入が必要です。
ただし、人事評価制度が整っているからといって、社員のモチベーションが高まると思い込むのも間違いです。
中小企業が人事評価制度のメリット・デメリット、導入する方法などについて説明します。
人事評価制度とは
人事評価制度とは、社員を公平に評価する仕組み、方法です。
人事評価(じんじひょうか)または人事考課とは従業員の業務の遂行度、業績、能力を評価し、賃金や昇進等の人事施策に反映させる仕組みのこと。6カ月や1年など定期的にかつ継続的に実施される。
人事評価制度が無い場合、社員は何に対して努力すれば評価されるかわからないので目標を見失うかもしれません。
評価されている人と比べて、理由がわからなければ不満にもつながるでしょう。
中小企業には人事評価制度が存在しないところが多いですが、長期的目線にたてば、早いうちに人事評価制度、方法の整備が大切です。
人事評価制度を導入する目的
中小企業が人事評価制度を導入する目的は社員のモチベーションの向上です。
制度が無い場合、社員は自分自身がどの方向で成長していけばよいのか目安がわかりません。
ただ与えられた仕事をこなすだけになり、自分自身の成果は給料でしか測れません。どうして給料の額がこの額なのか理由がわからない場合、不満につながります。
逆に人事評価制度があれば、現時点の自分のスキルと熟練度が明確になります。
次にどのようなスキルを身につければ良いのか明確になります。給料以外にも自分の成長を見える化できるのでモチベーションが高まります。
会社側としても指針ができるので、社員教育が効率的になります。戦略に沿って、どのような能力の持った人材が欲しいのかが明確になります。
厳密には、モチベーションの向上効果よりも、不公平感の解消、不満解消の効果の方が大きいです。その理由については後述します。
評価する対象は
評価する主な対象は3種類あります。
能力評価
社員がどのようなスキルを持っているのか、その熟練度はどれぐらいなのか。持っているスキルが多いほど、できる仕事は多くなります。
そして熟練度が高いほど、生産性が高まります。
業績評価
仕事の結果を評価するものです。会社側としては、これだけで評価したいところでしょう。仕事は失敗もつきものです。
頑張ったけど結果がでなかったから評価されないではモチベーションを下げてしまいます。プロセスを併せて評価が大切です。
情意評価
やる気を評価するものです。やる気をどのように評価するか基準があいまいになりがちです。会議にどれだけ発言するかとか、アイデアを何件出したとかかもしれません。
評価者の主観が入りやすいので、測定可能な方法にするのが大切です。
人事評価制度のメリット・デメリット
中小企業は人事評価制度が無いところも多いです。
これから制度を用意する上でメリット・デメリットを理解した上で設計しましょう。
メリット
・社員のモチベーションが上がる
自分の評価や成長が見えるので、達成感と成長意欲が高まる可能性があります。また、上司の好き嫌いで評価が決まらず、公平感が出ます。
・人事戦略が明確になる
会社の戦略に合わせて、どのような能力の人材がどれぐらい欲しいか明確になります。それに合わせて採用、教育計画が立てられるようになります。
・生産性が向上する
社員の成長によって会社の業績も向上します。
デメリット
・社員のモチベーションが下がる可能性がある
人によっては評価にプレッシャーを感じます。差を明確化されるので、自信を失う社員も現れるかもしれません。
・社員の不満につながる可能性がある
社員の意見を取り入れずに設計すると、評価方法に不満を感じるかもしれません。それはそのまま会社への不満と繋がります。
・人事評価者の訓練も必要
人事評価者、上司の能力次第で、うまく部下の努力を評価できない場合がある。評価者ごとによる人事評価方法ばらつきも社員の不満へとつながります。
・自由度を失う可能性がある
人事評価制度をガチガチに決めてしまうと、評価されない仕事が現れたときチャンスを逃すかもしれません。
中小企業が人事評価制度を導入するには
人事評価制度を導入するのに、重要なキーワードは「コミュニケーション」です。
人事評価制度を導入する方法
導入する方法に決まりなどはありません。参考に導入方法を示します。
1.人事評価制度導入の方針を周知する。周知の順番は会社それぞれです。いきなり明日から導入しますというと社員は拒否反応を示します。
できるだけ早い段階から社員の意見を集め、不安を取り除くようにします。
2.今後の戦略に必要なスキルを洗い出す。管理職とともに、現在から今後も含めて、どのようなスキルを持った人材が必要なのか洗い出します。
3.洗い出したスキルを初級レベルから熟練レベルまで段階に分けて、それぞれ「できること」と「レベル」を割り当てる。
4.業績評価、情意評価など他の評価の算出方法を決定
5.総合評価の算出方法の決定
6.算出方法の納得性や人事評価者訓練なども兼ねてテストを行う
7.人事評価制度を導入する
人事評価制度を導入する際の注意点
人事評価制度に対する不満が大きくなると失敗します。そして方法に完璧なものなどありません。
多面評価制度など新しい評価方法も開発されています。完成しても、定期的に見直しが必要になります。
社員とのコミュニケーションは欠かせません。情報を収集しながら、どうやったら社員がモチベーション高く、自己成長を促していけるのか考えていかなければなりません。
評価制度に加えて、1on1ミーティングなどの方法も取り入れると良いでしょう。
人事評価方法と1on1ミーティング

人事評価制度は、社員の不公平感を排除し、仕事の方向性を示すのに有効です。
しかし、制度があれば、社員が主体的に動くわけでは無いとわかってきました。
社員のモチベーションを高めるのに、導入が進められている方法が1on1ミーティングです。まず人事評価方法とモチベーションの関係から説明します。
人事評価方法とモチベーション
人事評価制度が整っているからといって、社員のモチベーションが上がるわけではありません。
不公平感に関する不満が減るだけです。モチベーションが上がるとしたら大きく2つにわかれます。
・高く評価されたい
・低く評価されたくない
「どのような評価をされてもかまわない」と考える社員にはモチベーションアップの効果は無いでしょう。
「低く評価されたくない」という社員にとっては、人事評価制度は逆にストレスになるでしょう。
そのように考えると、人事評価制度でモチベーションが上がる人は少ないです。
人事評価方法は会社が上の立場から評価する方法であるので、評価される側にとってはそれほどモチベーションが上がるものではありません。
実際、社員のモチベーションを高めるに至っておらず、それを改善する方法として1on1ミーティングなどの導入が進められています。
1on1ミーティングとは
1on1ミーティングとは、上司と部下の1対1の面談をいいます。
「評価面談と同じでは?」と感じられるかもしれませんが、方法と目的が異なります。
評価面談は「上司が部下を評価するもの」であるのに対し、1on1ミーティングは「上司が部下の主体的な行動と成長を促すもの」です。
大きな違いは、「話をする主体」と「頻度」です。1on1ミーティングでは、部下が主体となって話をします。
上司は聴き役に徹します。そして頻度は、1週間に1回~1ヵ月に1回のペースで行います。
毎回の1on1ミーティングで、次回の1on1ミーティングまでにする行動を決めて実践を促します。行動によって、部下が成長していきます。
成長によって、部下はやりがいを感じ、モチベーションを高めていきます。
上から「やれ」と指示されての行動より、自分で「やりたい」と思うことをできている感覚をもてると、会社に対するエンゲージメントも高まります。
社員とのコミュニケーション方法が大切
これから通年採用が一般的になれば、さまざまな人材が流動的になります。中途入社の社員が増える可能性が高まります。
中小企業でも外国人の採用も増えるでしょう。同一労働同一賃金制度も始まるので、すべての社員が納得できる評価制度の導入が望まれます。
ここでは、人事評価制度が無い会社が、今後導入する方法としてヒントを紹介しました。
人事評価制度作成に関する支援サービスがあるので、つくる気になればすぐ作れます。
ただし、作ったからといって上手くいくとは限りません。上手く作っても効果があらわれるまで時間がかかります。
失敗する事例は上述しましたが、社員とのコミュニケーション不足です。支援サービスに頼むとしても、丸投げしないようにするのが大切です。