2代目経営者がベテラン社員にリーダーシップを発揮する方法
先代から後を任された2代目経営者が、事業を進める中でぶつかる大きな壁があります。
「ベテラン社員が、指示に従ってくれない」です。
「経営改革を進めたい」と考えているのに、協力してもらえない。
だから、まったく進まないといった状況です。
この問題は、経営者が行うリーダーシップの質を変えるだけで、大きく改善します。
ベテラン社員に対して、どのようなリーダーシップを発揮すれば良いのか。
発生する原因と、対処法について説明します。
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【目次】 |
ベテラン社員の問題
2代目経営者として、会社を承継すると、「売上・利益の拡大」「業務の効率化」「資金繰り」など、さまざまな問題にぶつかります。
大きな問題のひとつに、「ベテラン社員が、指示に従ってくれない」があげられます。
仕事の効率を低下させる、ベテラン社員の問題について整理します。
ベテラン社員が指示に従ってくれない
2代目経営者が承継して、まず考えるのは、「経営状況を改善したい」「自分のやり方を浸透させたい」などです。
経営状況が悪ければ悪いほど、その想いは強くなります。
しかし、経営改革を進めようとしたとき、ベテラン社員の反発が大きな壁になるケースがあります。
「経営改革をしたい2代目経営者」と「受け入れられないベテラン社員」の主張がぶつかって、何も決められない状態になります。
ベテラン社員が、2代目経営者の話を受け入れないのは、以下の理由です。
・これまでのやり方が、ベストと考えている
・過去の成功体験が、忘れられない
・現状のままがよいと、現状維持バイアスが働いている
・会社の業績に対する危機感が、欠如している
・新しいやり方に対して、失敗の恐れ
・2代目より自分の方が、仕事を良く知っている
ベテラン社員に業績が依存
2代目経営者もベテラン社員の仕事のやり方に問題に感じています。
たとえば、次のような例です。
・独断で値引きを行い、売上は上がるけど利益が下がっている
・顧客からの要望に独断で応じ、取扱商品が増え、在庫も増えている
・顧客との関係強化に、交際費の出費が増えている
問題を抱えていたとしても、「売上を維持していくには必要」と言われると、2代目経営者は何も言い返せないかもしれません。
指示に従わないベテラン社員に対して、2代目経営者は「仕事を任せたい」と思う気持ちがなくなります。
とはいえ、二代目経営者はベテラン社員に、「売上」「商品開発」「ノウハウ」などの多くを依存しており、存在を無視できません。
辞められてしまうと、会社の業績に大きな影響があり、2代目経営者も強く注意ができません。
ベテラン社員も「これまで会社を支えてきた」との自負で、簡単には引き下がらないでしょう。
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ベテラン社員問題が発生する理由
ベテラン社員は経験が長いので、会社・業界に対する知恵やノウハウが深いです。
貴重な存在を、上手に活用することが求められています。
しかし、2代目経営者にとって、非常に難しい問題になっています。
経営者として信用されていない
ベテラン社員は、会社を成長させてきたというプライドがあります。
自分よりも年下で、知識・経験の浅い2代目よりも、「自分の方が正しい」と考えます。
また、知識や経験も浅い2代目経営者が、自分の上司となることに対する妬みもあります。
粗探しをしては、「創業者の方がよかった」との発言も考えられます。
つまり、「2代目は経営者として、部下から信用されていない」という見方ができます。
正論であったとしても、ベテラン社員は「2代目経営者」を受け入れたくない感情が勝ってしまうのです。
たとえば、明らかにベテラン社員より、知識の多いMBAを取得した2代目経営者に対しても、発生しています。
2代目経営者は、「成果を見せて、ベテラン社員を納得させたい」と思います。
しかし、実際はベテラン社員が非協力的で、思うように成果を出せないといったジレンマに陥ります。
ベテラン社員に2代目の想いが伝わっていない
2代目経営者とベテラン社員の間で、コミュニケーションが取れていないと、感情的な対立が生まれます。
2代目経営者「業績悪化させてきたやり方を、続けていたら経営が行き詰る」
ベテラン社員「ここまで会社を成長させてきた、前経営者の経営方法で大丈夫!そのうち良くなる」
お互い自分が正しいと譲らず、いつまでも平行線のままです。
対立は、会社のビジョンや危機感が共有できていない原因で発生します。
つまりコミュニケーションの問題です。
お互い相手が間違っている前提で、コミュニケーションしようとしており、対立が生まれるのです。
両者とも「会社を良くしたい」という、同じ思いを持っています。
だからこそ、考え方の違いや価値観を認めながらのコミュニケーションが大切です。
なぜなら、対立が解消しないかぎり、2代目の想いは伝わらないからです。
リーダーシップを発揮
リーダーシップといっても、さまざまな種類があります。
命令して従わせるだけが、リーダーシップでは無いです。
参考に、アメリカの心理学者レヴィンが提唱した、リーダーシップのタイプを以下に紹介します。
専制型:リーダーが全て決めて指示する。
放任型:部下が全て決めて実行する。リーダーは関わらない。
民主型:リーダーの援助のもと、メンバーで討議して決めて実行する。
実験の結果、民主型リーダーシップが最も生産性が高いとなっています。
ベテラン社員と一緒に、経営を考えていくという方法も存在します。
ベテラン社員から教えてもらう
社内で会社・業界について、最も詳しいのはベテラン社員です。
ベテラン社員から、多くの情報を教えてもらうとよいです。
2代目経営者自身も、「わからないことは、わからないと認める」が大切です。
当然、二代目経営者がベテラン社員に対して、「あなたは間違っている」前提で関われば、反発されます。
ベテラン社員に対して尊敬と感謝を示せば、快く教えてくれることが期待できます。
2代目経営者はベテラン社員に対して、「教えてくれたのはいいけど、やっぱり間違っている」と感じるときもあるでしょう。
気になる点は、「〇〇のような問題が発生したときは、どのように対応すれば良いか?」を尋ねてください。
2代目社長はベテラン社員に対して、「会社を良くしていく目的に、逃げずに考えよう」という意識を共有してください。
突き詰めていけば、お互い納得できる答えが出せるでしょう。
ベテラン社員の存在価値を認めれば、自尊心とともにモチベーションが向上していきます。
コミュニケーションの機会を仕組みで増やす
2代目経営者とベテラン社員のコミュニケーションが上手くいかない理由に、お互い相手が間違っていると思い込んでいるからです。
2代目経営者:「業績が悪いのは、ベテラン社員たちのやり方に問題がある」
ベテラン社員:「2代目経営者は会社、業界をわかっていない」
このような考え方で関わると、互いにぶつかり関係性が悪化します。
なぜなら2代目経営者の「会社をこうしていきたい」に対して、ベテラン社員は「あなたのやり方は間違っている」と攻撃されているように感じるのです。
2代目は、「こんな会社にしていきたい。ベテラン社員の助けが必要」という気持ちをもって、ベテラン社員との関わりが大切です。
2代目経営者は、理想としている会社の形を全社員に伝えて、「ベテラン社員の助けが必要」という気持ちが大切です。
ベテラン社員とのコミュニケーションに対して、2代目経営者は気を使うとききます。
「定例ミーティング」や、「昼食を一緒にする」など、仕組みとして機会をつくると良いでしょう。
お互いの理解を深めるには、コミュニケーションの量の確保が大切です。
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ワンチームになろう
2代目もベテラン社員も対立せず、ワンチームになることがもとめられます。
理由を説明します。
生産性の強化
生産性に大きな差が出ます。
同じ仕事をするなら、協調性の高いチームワークの良い会社の方が、生産性が高くなります。
競争力の強化
労働生産性が低いままだと、労働生産性の高い外国企業が日本に参入してくると、負けてしまいます。
労働生産性の低い会社は、市場から追い出されます。
2代目経営者は、ベテラン社員ともワンチームになって、労働生産性をアップし、競争力を強化する必要があるのです。
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ワンチームになれない理由
「ワンチームになろう」
特に新しい言葉ではありません。
しかし、なろうと思っても、簡単にはなれません。
リーダーシップ不足
ワンチームになれない要因の一つが、リーダーシップに対する不信感です。
会社の将来性に不信をいだき、退職する方も多くおられます。
リーダーの発言がコロコロ変わる、迷って決められないなどがあれば、ワンチームになれないでしょう。
ベテラン社員の意見をきかないも、「チームに不要なんだな」と感じさせる要因になります。
コミュニケーション不足
リーダーシップを発揮するには、メンバーに方向性を伝えなければいけません。
また、メンバーの意見にも、耳を貸さなければいけません。
どんなに正しい方向を示していたとしても、メンバーがそれを知らない。
もしくは、メンバーがついてこないとなると、ワンチームにはなっていません。
ベテラン社員含むメンバーと情報共有するにも、コミュニケーション能力の強化は欠かせません。
ワンチームに必要なリーダーシップ
ワンチームとは一丸となった組織、一体感のある組織をいいます。
チームを一つにまとめるには、強力なリーダーシップがもとめられます。
リーダーシップとは
リーダーシップについて、さまざまな考え方が存在します。
次の2つを重要としています。
・方向性を示し、それを達成する為の情報を収集し、意思決定する力
・メンバーの協働意欲を引き出す力
逆に、以下のようなリーダーは、リーダーシップを発揮できません。
迷って決められないリーダー
どこに向かっているのかわからないリーダー
人の意見を聴かず間違った方向に突き進んでいるリーダー
だれもついてこないリーダー
リーダーに必要なコミュニケーション能力
2代目経営者に関わらず、リーダーの役割は、組織づくりです。
方向性を示して、メンバーに共有し、メンバーのモチベーションを高める。
この役割に重要な力が、コミュニケーション能力です。
コミュニケーション能力が無いと、メンバーに指示命令を伝えられません。
メンバーからの報告も聞き取れません。
コミュニケーション能力がないと、組織をワンチームにできないのです。
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リーダーシップとマネジメント
2代目経営者は、リーダーシップだけでなく、マネジメント力も必要です。
リーダーシップとは
リーダシップについて、Wikipediaでは、次のように書かれています。
「自己の理念や価値観に基づいて、魅力ある目標を設定し、またその実現体制を構築し、人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動」
出典:Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/リーダーシップ)
整理すると、次のようになります。
・方向性を示す
・組織をつくる
・メンバーのモチベーションを高める
バーナードの組織の3要素に通じる部分も近いです。
リーダーの役割とは、「組織づくり」としています。
組織の3要素とは、次の要素です。
・共通目的(方向性)
・貢献意欲(モチベーション)
・コミュニケーション(方向性を共有し、モチベーションを引き出す)
マネジメントとは
マネジメントについて、Weblio辞書では、次のように書かれています。
「マネジメントとは、計画-組織-統制の一連の活動。企業に導入されれば経営管理」
出典:Weblio辞書(https://www.weblio.jp/content/マネジメント)
計画の遂行に、PDCAサイクルを回します。
リーダーシップは、方向性を示して、メンバーを引っ張っていきます。
マネジメントは、進捗がスムーズに進むように、管理していきます。
2代目経営者は、リーダーシップとマネジメント力の両方を発揮が必要です。
リーダーシップは重要
2代目経営者は、リーダーシップが重要。
あらためて言われなくても、わかっていると思います。
「具体的に、リーダーシップとは何なのか?」と訊かれると、定義が曖昧だったりします。
リーダーシップ理論はさまざま存在しますが、シンプルに考えると次の2つです。
方向性を判断する
リーダーの役割は、「方向性を示して、そこへ向かう過程で意思決定を行う」です。
方向が間違っていたり、迷って意思決定できないとなると、メンバーは不安になります。
そもそも方向が間違ってしまうと、どんなに優秀なメンバーがいてもチームは失敗します。
方向性を判断し、正しい意思決定を行う2代目経営者の責任は大きいです。
メンバーがついてきてくれる
リーダーは、メンバーがついてきてくれてこそ、その力を発揮できます。
どんなに素晴らしい方向性をもっていたとしても、メンバーがついてきてくれなかったら実行できません。
メンバーにリーダーと認められて、初めてリーダーシップをとれます。
ベテラン社員含め、メンバーとの信頼関係構築する、コミュニケーション能力がもとめられます。
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リーダーシップが発揮できない理由
リーダーシップが重要とわかっていながら、リーダーシップが発揮できない理由。
主に次の2つです。
失敗への恐れ
失敗への恐れです。
最初の頃は果敢に攻めて、チャレンジして出世してきた企業も、成功すると守りに入り始めます。
近年は、外部環境が目まぐるしく変化し、さまざまな競合企業も現れます。
判断に迷うケースがよくあります。
「戦略的に様子を見るのか」「迷って決められないのか」で大きく異なります。
失敗を恐れて迷って決められずに、後手後手に回って、結局失敗する経営者がいます。
コミュニケーション能力不足
メンバーがついてこないのは、コミュニケーション能力不足によるものです。
リーダーは方向性を示したり、意思決定の結果をメンバーに伝えなければならないのです。
伝えたけどメンバーがついてこないのであれば、「信頼関係が、構築されていない」が原因です。
メンバーとの信頼関係ができていないのは、コミュニケーションの質の問題です。
ティーチングとコーチングの違い
2代目経営者は、一方的な指示命令だけでなく、ベテラン社員の話を聴く態度が必要です。
ティーチングだけでなく、コーチングも必要なのです。
ティーチングとは
ティーチングとは、「教える」です。
2代目経営者が、ベテラン社員に指示命令(ティーチング)する場合、答えは2代目経営者の中に存在します。
2代目経営者の指示命令の内容が正しく、ベテラン社員が素直に従ってくれると、早く成果につながります。
しかし、ベテラン社員の中に「自分の方が正しい」という答えがある場合、反発が発生します。
ティーチングだけでは、協力関係が得られません。
コーチングとは
コーチングとは、相手から答えを引き出すスキルです。
2代目経営者がベテラン社員にコーチングする場合、答えはベテラン社員の中に存在します。
ベテラン社員は、「自分の考え」を聴いてもらえるので安心します。
2代目経営者は、自分自身の考えと、ベテラン社員の考えから、総合的に意思決定できます。
意思決定の精度も高まり、ベテラン社員の納得度もたかまります。
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マネジメント力
2代目経営者は、計画がスムーズに進むようにマネジメントしつつ、リーダーシップを発揮しなければなりません。
重要になるのが、メンバーのモチベーションを高める力と、的確に判断する情報収集力です。
メンバーの主体性を引き出す
企業運営する上で、社員がついてこなかったら仕事が進みません。
そして、逐一指示を出さなければならなかったら、経営者の仕事がまわりません。
社員の主体性を、引き出す必要があります。
社員のモチベーションの種を引き出し、それを刺激するようにコーディネートが大切です。
2代目経営者の考える方向へ、ベテラン社員の主体性を引き出さなければなりません。
的確な判断に必要な情報収集力
経営者が判断に迷っていたら、社員は不安になります。
間違った判断をしても、同様です。
意思決定を先延ばしにするのも、「先延ばしにする」という意思決定です。
判断に間違ったら、社員全員、間違った方向に進みます。
リーダーの意思決定は、重要です。
ベテラン社員の情報を含めて収集して、総合的な判断が必要です。
リーダーシップ力強化
リーダーシップ力の強化方法は、コーチングの採用です。
コーチングを受ける、学ぶ両方の効果によってリーダーシップを強化できます。
コーチングを受ける
コーチングとは、クライアントの視点を広げつつ、意思決定をサポートするものです。
コーチングを受けると、経営判断の精度とスピードがアップします。
経営者でも、成功体験、価値観に選択肢が縛られます。
視野を広げる仕組みが、必要なのです。
それが、コーチングを受ける効果です。
コーチングを学ぶ
コーチングを学ぶと、コミュニケーション能力の強化がはかれます。
コーチングとは、「聴く力」に重点をおいたコミュニケーションスキルです。
コミュニケーション能力は、「話す力」と「聴く力」があって、初めて成り立ちます。
2代目経営者もベテラン社員も、「話す力」は強いです。
「話す力」だけでコミュニケーションをとろうとするから、意見がぶつかるのです。
相手の話を「聴く力」が、必要なのです。
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認められるリーダーになる前に
多くの人が、自分を認めてくれない人の指示には、反発したくなります。
2代目経営者が、自分の想いをベテラン社員に認めてもらいたいと思うなら、先に「ベテラン社員の想い」を認めてあげましょう。
2代目経営者が、リーダーシップを発揮できるかどうかは、ベテラン社員を含めた全社員が、2代目の想いを認めてくれるかにかかっています。
お互いに認めあえるような関係構築に、コミュニケーションの機会を増やしていくようにしましょう。